かつて何カ所ものスイッチバックを要した篠ノ井線。
松本盆地から聖高原へと登り、善光寺平へと一気に下っていく。
冠着（かむりき）駅は、善光寺平へと下る手前に佇む駅だ。
ホームに桜が植わるこの駅。
春には大勢の人が訪れるこの駅も
夏の間はほとんど訪れる人もいない。夜ともなればなおさらだ。
「夏夜のシンフォニー」
1日を惜しむように泣いていたヒグラシの声は徐々に小さくなり、
駅は一瞬、静穏な空気に包まれる。
辺りがほぼ暗くなったころ、
静穏な空気を打ち破り到着した列車。
乗降客もなく、発車音を響かせ走り去っていく。
ホームに残ったのは秋の虫たちの声。
雑音のない夏夜の高原駅は、
シンフォニーが流れる
一人だけの天然スタジオなのだ。
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